2021年01月13日 10:39
太陽の下で農作業の真似事をしていると大粒の汗がしたたり落ちる。舐めてみるとしょっぱい。生きているな!生かされているな!と宇宙を司る神の存在が実感できる瞬間です。何を持っても代えがたく、この爽快感はたまらなく有り難い。生命の保障をしてくれているようで。親父が稲を眺めながら一服している姿が愛おしく懐かしい。
こんな歌い出しで始まる「帰去来の辞」は1500年以上前の中国の詩人、陶淵明の隠とん生活宣言の詩だ。今こそ、自然に帰り、母なる懐に抱かれ、その鼓動を体で感じ、心を大いに遊す。 この大いなる自然の有情により、失いかけている生命力、精神力を回復させ、かけがえのない自然と共に生きる。この詩にあやかったわけでもないだろうが、最近、定年後、田園に帰り、農耕にいそしむ人々が急増中。その動きを特集した雑誌が次々にベストセラーとなっている。
年々減る日本の農業人口の中で、60歳以上の新規就農者は1994年4万5千人だったのが、96年には5万9千人と急増。そんな人々を特集した雑誌「現代農業」(農文協刊)の増刊号「定年帰農ー6万人の人生二毛作」が今年1月に刊行されると、このことが新聞やテレビ番組などでしばしば取り上げられ、「定年帰農」は時代の流行語のひとつとなった。増刊号は増刷され、7万部も売れた。
農文協では続く増刊号として7月に「田園住宅」を、10月には「田園就職」を刊行。「田園住宅」では定年帰農の拠点となる家づくりや古民家再生法、長期宿泊施設付き貸し農園などの事例などを取り上げ、「田園就職」では農業法人への就職や国産大豆を使った豆腐づくりのミニプラントなど自営農業に限らない農村の仕事の面白さも紹介している。これらも各6万部だ。
反響は国内にとどまらず、最近では日本人の生活変化に注目した米国のワシントン・ポスト紙が農文協を取材するなど、定年帰農ブームは海外にまで注目されだした。
それは敗戦から間もない時代。今、経済戦争に負けて第二の敗戦が言われる中での「定年帰農」である。時代の大きな変化に直面した時、日本人にとって「帰農」や「田園」は心動かされる生活スタイルであり、暮らしの場であるようだ。
農文協の甲斐良治さんも「イギリスやフランスでは1950年から農村人口の伸びが都市を上回る『逆都市化現象』が始まり、『田園ルネサンス』『田園革命』などと言われています。日本もそんな歴史の転換点に立っ他のではないでしょうか」と言う。(信濃毎日新聞 1998.12.25)
種を蒔けば芽が出、実を結ぶ。この因果関係が、わたしたちの生活に見い出せなくなってきています。これがわたしたちを不安にしています。人の気紛れを基調にした社会経済から、一歩下がり、こころのよりどころを大自然の大順にもとめようとする人が現われても不思議ではありません。